映画

「欲望から解放される最善の方法は、欲望に身をゆだねること。」 

映画館に行くことを禁欲して3.22シンポの予習をしていると、ふとジョン・フォードの『わが谷は緑なりき』はとてもRW的な映画ではないかと思い至り、DVDを貯蔵庫から探し出してきて見る。というわけで、ちょうど一年前に某機関から(400字程度でと)依頼され…

『接吻』 

昨日12日、勤務先での仕事と「活動」の後、久しぶりに映画館へ。万田邦敏監督『接吻』(2006年)をユーロスペースで見る。じつは映画を見ている場合ではないのだが、このフィルム、昨年秋の東京フィルメックスでの上映時にうっかり見逃していて、数年前に万…

一月にスクリーンで見た映画

以下とりとめもなく(タイトルが太字になっているものが一月にスクリーンで見た映画です)。マノエル・デ・オリヴェイラ『夜顔』(2006年)には心底打ちのめされた。あの奇妙な食事の場面の、窓外から室内にしのびこんでくるパリの夜気の透明さは、30年とい…

なぜ、中平卓馬か

原点復帰-横浜作者: 中平卓馬出版社/メーカー: オシリス発売日: 2003/10メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 20回この商品を含むブログ (22件) を見る小原真史『カメラになった男 写真家 中平卓馬』(2003年)@シネマアートン下北沢。(この映画に関する情…

「激ヤバ」

昨日4日、某所での新年会の前に、タランティーノ『デス・プルーフ in グラインドハウス』を三軒茶屋中央で。昨年の公開時に見逃し続けていて、年を越してやっと見ることができた。2日のエントリーで選んだ、昨年の新作外国映画ベストの中に文句なく入る作品…

2007年・スクリーンで見た映画ベスト・テン 

新作はベスト・テンを選べるほど見ていないので、邦画から選んだ3本を見た順に。 『叫』黒沢清 『サッド ヴァケイション』青山真治 『妄想少女オタク系』堀禎一 旧作ならベスト・テンを選べると思ったが、これも逆の意味で難しいことに気づいた。時間がない…

「東北弁」映画ベスト 

上のエントリーで書いたようなことをとりとめもなく考えていたら、「東北弁」映画ベスト選出、という遊びを思いついたので、試しにやってみよう。(東北地方の多様な方言を「東北弁」とまとめてしまってすみません。)私にとっては、まず相米慎二『魚影の群…

運動とアパテイア 

今村昌平『赤い殺意』(1964年)をDVDで。東北(仙台近郊?)の封建的遺制が支配する家に縛られながらも、縛られていることすら意識できないヒロインの貞子(春川ますみ)が、あるとき心臓病みの強盗犯(露口茂)に強姦される。神経質で嫉妬深い夫(西村晃)…

ジャッキー・ブラウン  

シネマヴェーラ渋谷の特集「グラインドハウス A GO GO!」で上映されていたクエンティン・タランティーノの『ジャッキー・ブラウン』(1997年)をぜひスクリーンで、と思っていたのに観逃してしまい、仕方なくDVDで。(写真はDVDではなくサントラCDのもの。)…

『ファスター・プッシーキャット キル!キル!』 

今週は月、火と、東京フィルメックスのリティック・ゴトク監督特集@アテネ・フランセ文化センターに通っていた。一日の労働の後、上映時間が2時間を超えるフィルムを2本ずつ二日にわたって観るという過酷な体験によって最も犠牲にされたのが睡眠時間だ。好…

『私たちの十年』 

昨日業務終了後に、第8回東京フィルメックスで、ジャ・ジャンクー(賈樟柯)のドキュメンタリー作品『東』(2006年)と同監督の短編『私たちの十年』(2006年)を観る。 『東』については、上映中に不覚にも数回意識を失ってしまったので、何を言う資格もな…

予兆? 

昨日、某駅で下車して改札口に向かっていると、すぐ後ろから民謡か何かを唸る異様な低音が聞こえてきたので何だろうと思って振り返ると、トレードマーク(?)の赤いキャップを被った中平卓馬氏がいた。最近、自宅の机上のよく見えるところに↓の本を置いて、…

アリ-ババ走る 

2日(金)、ジャック・ベッケル『アラブの盗賊』(Ali Baba et les quarante voleurs, 1954年)をアテネ・フランセで。今年6月に行われた画期的な特集「ジャック・ベッケルの一撃」@青森県立美術館で上映された35ミリフィルムをフランスから再び取り寄せて…

『ドキュメント 路上』 

第20回東京国際映画祭の特集「映画が見た東京」で上映された一本、『ドキュメント 路上』(土本典昭監督、1964年)をル・シネマで。シャープなモノクロの画面と、そこに介入する音楽・音響、そしてクールで自由な編集。この作品を観ていると、すぐれたドキュ…

リチャード・フライシャーの慎み深さ

昨日13日、『夢去りぬ(The Girl in the Red Velvet Swing)』(リチャード・フライシャー監督、1955年)と、映画批評家クリス・フジワラ氏のレクチャー(英語、通訳付き)をアテネ・フランセ文化センターで。 字幕なしの上映だったが、今の日本で『夢去りぬ…

幽霊の話(続) 

「黒沢監督は確信犯だった。」といって済む話では本当はないのだが、いつもの悪い癖で面倒くさくなってやめてしまった。しかしそれではまずいと思ったので、少しだけ続きを。例のカットがあるにもかかわらず小西真奈美が幽霊であることによって、他の登場人…

小西真奈美は本当に幽霊なのか

叫 プレミアム・エディション [DVD]出版社/メーカー: エイベックス・ピクチャーズ発売日: 2007/08/01メディア: DVD購入: 4人 クリック: 251回この商品を含むブログ (141件) を見る黒沢清監督『叫』(2007年)を公開時と再上映時にそれぞれ一度ずつ観て、「映…

小川真由美を讃えて 

昨日、『二匹の牝犬』(渡辺祐介監督、1964年)をシネマヴェーラ渋谷で。 緑魔子のデビュー作ときけば観に行かないわけにはいかず、仕事は自宅持ち帰りにして一路渋谷へ。平日16時上映の回で観たが、座席は8割程度は埋まっていた。シネマヴェーラの今回の特…

『降霊』

黒沢清『降霊』をDVDで。こんなに緑をしっかり撮った監督なんて、『隣の女』のトリュフォーくらいしいか思い浮かばない。 それにしても、黒沢監督って、自己韜晦を演じきれないくらいに複雑な照れ屋なんですね、やっぱり。DVDを観ただけで言うのもなんだけど…

遅れた追悼

すでに旧聞に属することだが、9月4日にドキュメンタリー映像作家の佐藤真氏が亡くなった。6日の新聞で訃報に接して以来、佐藤監督の作品を追悼の意味を込めて観直そうとしながらも、何となくそうすることがためらわれ、私たちの思考を脳の中枢とは別の系へと…

『サッド ヴァケイション』

一つのフィルムを鑑賞した回数の多さが、そのフィルムをめぐって紡がれる言葉の質を保証するものでは必ずしもないだろうけど、たとえ軽いコメントめいた感想にすぎないとしても、その感想が作品に対して好意的か否かということにかかわらず、一度しか見てい…

3分の2は行方不明

昨日16日、溝口健二監督のサイレント2本、『滝の白糸』(1933年)と『折鶴お千』(1935年)を新文芸座で。生の活弁付き上映で、弁士は『滝の白糸』が澤登翠、『折鶴お千』が桜井麻美。活動弁士の生の「熱演」付きで映画を観るというのは初めての体験で、とて…

山田五十鈴を讃えて

『マリヤのお雪』(1935年)は、ジョン・フォードの『駅馬車』(1939年)に先駆けて、モーパッサンの「脂肪の塊」を翻案した映画で、舞台は西南戦争中の薩摩辺り。といっても、フィルムの後半は原作から離れ新派劇の要素が色濃く出ている。田舎芸者のお雪(…

カメラがおいらの拳銃さ

『愛欲の罠』に触発されて、映画における狙撃と観ることの欲望について、昨日ちょっと思いついたことだけ書いたけれど、その後、フィルムにおける狙撃シーンが、映画を観ることと撮ることをめぐってより高度な反照性(再帰性)に達している作品があったこと…

テュ・エ・スュペール、マリオ!

大和屋竺監督『愛欲の罠』(1973年)@一角座。 公開時のタイトルは『朝日のようにさわやかに』。長らく所在不明だったこのフィルムの原版が日活の倉庫から発見され、ニュープリントで上映されると聞けば、観に行かないとバチが当たるような気がして…。 主人…

蕎麦じゃなくて中華でもよかった

昨日(28日)、ジャ・ジャンクー監督『長江哀歌(エレジー)』(原題:三峡好人、2006年)を観る@シャンテ・シネ。もう一回は観に行くと思う。 たくさんの宝石が詰め込まれているフィルムで、一回観ただけではその魅力をうまく説明することは私にはできない…

驚嘆すべき正確さ

王兵(ワン・ビン)監督『鉄西区』(2003年)@アテネ・フランセ。9時間におよぶ長尺のドキュメンタリー・フィルムなので、24日、25日と二日に分けて上映された。2003年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞を受賞して以来、この噂の作品が上映されるたび…

「二度としないわ恋なんて」の嘘

ニコラス・レイ監督『暗黒街の女』(原題:Party Girl, 1958年)@シネマヴェーラ渋谷。DVD 等で観ることができないフィルムのためか、平日昼間にもかかわらずほぼ満席だった。舞台は30年代のシカゴ。ギャング組織のやり手顧問弁護士トミー(ロバート・テイ…

リドリーじゃなくてトニー

『マイ・ボディガード』(トニー・スコット監督、2004年)をDVDで。最近レンタルが開始された、同監督の『デジャヴ』(2006年)がやたらと評判がいいので借りようとしたのだけれど、その前にこれを観ておこうと思って。 トニー・スコットの編集スタイルは…

「世界の外で会おうよ」

溝口健二監督『祇園囃子』(1953年)をDVDで。今はなき「並木座」で初めて観て以来だから、十数年ぶりだ。 「この程度のものならいつでも撮れる」とでも言いたげな、溝口監督の(弛緩とは無縁の)余裕がフィルムに滲み出ている。だがこうした安定感は、冷酷…