遅れた追悼

hidexi2007-09-30


すでに旧聞に属することだが、9月4日にドキュメンタリー映像作家の佐藤真氏が亡くなった。6日の新聞で訃報に接して以来、佐藤監督の作品を追悼の意味を込めて観直そうとしながらも、何となくそうすることがためらわれ、私たちの思考を脳の中枢とは別の系へと誘う彼の映像-音をときどき思い出しては、ため息をついたりしていた。

昨夜、やはり何となく、遺作となってしまった『エドワード・サイード Out of Place』(2005年)をDVDで観ていたら、あるカットに衝撃を受けた。コロンビア大学の裏庭のようなところで、背の低い二本の木が風にそよいでいるだけのごく短いカットなのだが、これは、写真家の牛腸茂雄の生涯と作品を辿った傑作『Self and Others』(2001年)の、木にフォーカスしたエンディング・ショットと同じく、大気の流れとして物質化された精霊をカメラがフレーム内に呼び込んでいるとでも言いたくなるような、禍々しささえ感じさせるカットなのだ。だがそれは、現実を超えたものをカメラが写しているということではない。カメラが記録するのは、木が風にそよいでいるという出来事にすぎない。ただ、それを他の何ものにも還元できない出来事としてフィルムに記録するために、どんな光やどんな風が必要なのかを、佐藤監督は考え続け探し続けていたのだと思う。

エドワード・サイード OUT OF PLACE [DVD]

エドワード・サイード OUT OF PLACE [DVD]