小川真由美を讃えて 

hidexi2007-10-06


昨日、『二匹の牝犬』(渡辺祐介監督、1964年)をシネマヴェーラ渋谷で。 
緑魔子のデビュー作ときけば観に行かないわけにはいかず、仕事は自宅持ち帰りにして一路渋谷へ。平日16時上映の回で観たが、座席は8割程度は埋まっていた。シネマヴェーラの今回の特集「妄執、異形の人々2」、結構人気のようだ。 

さてこの映画、腹違いの姉妹が一人の男をめぐって争うという例のパターン。しかしその諍いのスタイルが尋常ではない。赤線防止法施行から数年後、千葉の田舎から出てきた娘(小川真由美)が人気トルコ嬢に成長(?)し、貯めた金をさらに株で増やしながら、美容院のオーナーとなって証券会社の社員(杉浦直樹)と結婚することを夢見ている。もちろんトルコ嬢であることは杉浦には隠している。ある日、小川のアパートへ腹違いの妹(緑魔子)が転がり込んできて、ふとした偶然から緑が杉浦と寝てしまい…といったお話。 

緑魔子が目当てで観に行ったわけだが、これは完全に小川真由美先生の映画だ。やり手の、しかしどこか脆く純情なトルコ嬢を演じる小川先生が素晴らしすぎる。杉浦の前でしおらしい女になっているときの小川先生はぱっとしないのだが、他方、小川先生が不機嫌になればなるほどその表情は美しく輝く。かつて売春宿の女将だった沢村貞子(この人、面白いことに溝口の『赤線地帯』でも売春宿の女将を演じていた)が売春を斡旋するために小川先生のアパートを訪れ、寝起きの小川先生が不機嫌きわまりない様子で歯を磨いているカットがあるのだが、このときの小川先生の顔のシャープな美しさといったらない。こんなに美しい不機嫌さで歯を磨けるのは、一時期の椎名林檎しかいないかもしれない。小川先生の表情は、不機嫌になり不幸になればなるほど輝くのだから、その美しさの頂点が(ここからネタバレです。空白部分を範囲指定で反転させてお読みください。) 死ぬ瞬間であることは当然の帰結である。杉浦に首を絞められ抵抗もむなしく息絶える瞬間の小川先生の顔は、まさしく異形の美しさに輝いていた。 南無。