神的(非)暴力
『グラン・トリノ』(クリント・イーストウッド、2008)を今日見てきて、『チェンジリング』のときと同様、いやそれ以上に、深く倫理的な何かに触れたという感触に捉えられ、ただ惚けている。その「感触」は、例のシーンだけにかかわるものではないし、振り返ってみれば、程度の差はあれ多くのイーストウッド作品に共通するものだろう。フト想い出したのは、大西巨人『神聖喜劇』における冬木の次の台詞。「(鉄砲は)上向けて、天向けて、そりゃ、撃たれます。」
それにしてもこれ、遺作のつもりじゃないでしょうね。イーストウッド演じるウォルトが、暴行されそうになった隣家のモン族の女の子を救い、助手席に乗せて車を走らせながら二人で言葉を交わすシーンでは、幸せというのはこういう時間に流れていて、そしてそれは流れるがままにやがては忘れ去られてしまうのだけれど、その儚い時の感触だけは流れのよどみにかろうじて滞留している、そう思ったら急に涙が止まらなくなってしまった。泣くところではぜんぜんないのに…。
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