組合の一季節  

組合員アンケートを集計し、丸二日かけて団体交渉要求書を作成する。書きながらしだいに怒りが込み上げてきて筆がすべるが、試案を私大教連の方にチェックしていただき何とか穏当なものに仕上がった。「怒り」というと、ベンヤミンが(人間的)怒りの最高度の発現としての神話的暴力ということを言っていて、この暴力は「人間」の延長線上にある「神々」の存在の顕現そのものであり、これに対して神的暴力は…といった話は今日の話題ではないのでまたの機会にするとして、ともかく団交当日はドSキャラで攻めまくることになるでしょうから(ときどきMになって撹乱するわ)、役員の方々、お楽しみに。

私大教連といえば、数日前に単組代表者会議@早稲田大学に参加した。そこで中央執行委員長が紹介した話がちょっと面白かった。
委員長が最近沖縄に行ったとき、米軍基地の辺野古への移転に反対する運動を続けている或る牧師さんがこう言っていたそうだ。「ここでの反対運動は、ひとつになったら負ける」と。常識では、組合活動も含めて何か運動を推進するときには、「団結」や「連帯」というスローガンを掲げるものだが、(辺野古の)現実はそうではない、と。どういうことか。ひとつにまとまるということは、運動の代表者を中心にして組織化し団結するということだが、そうすると推進派(公権力)はあらゆる地縁血縁を使ってその中心を潰しにかかり、一度中心が潰されると反対運動全体がなし崩し的に壊滅してしまうそうだ。だから反対派としては、代表者らしき人があちこちにいる状況を作っておいて、そのうちの一人が潰されてもモグラ叩きゲームのように別のところから中心らしきものが出てくるようにしているという。これはしかし、軍事戦略上は理にかなっている、というかそれこそ常識に属することなのだろう。中心らしき電脳ハブがいくつも存在するネットの海は、まさしくアメリカの軍事政策の鬼っ子であるわけだし。とはいえ、私の関わっている組合を省みても、中心なき「自然成長的」リゾームを組織することは実際にはとても困難だ。そもそも、そうしたいわば「非組織」を「組織」するということ自体矛盾している。種をまいて水をやれば「自然成長的に」運動体が発展するわけでもない。ではどうすればいいの?私の乏しい経験からすると、時代錯誤的な近代主義者と馬鹿にされるだろうが、とにかく「個の確立」を促すより仕方がないように思う。カントの言う、他者依存的幼年時代からの脱却を促すという(思い上がった)啓蒙活動を、思い上がることなく地道に続けること。(これは、例の自己責任論とか福祉抑制論とは別の話です)。私の職場の組合では、一部の組合員に頼らずに活動するシステムを昨年作った。すべての組合員が順番に執行委員を務め、委員として活動するなかで「自立」の恐怖を克服してもらえたら、という狙いなのだが、うまく機能しないかもしれない。そのときはまた考えよう。

話をもどすと、辺野古の牧師さんは、「自分のために運動している人は長続きしない」とも語っていたそうだ。自分の利益(土地など)を守るためにのみ運動している人は、行政側との交渉過程で金を積まれると、反対運動を諦めてしまう場合が多いそうだ。これに対して、直接的には何の得にもならないが、或る「大義」のために闘っている人は粘り強いと。そういう人たちはおそらく、自分の意志でというよりも、自分を超えた「非人間的な声」に強いられているのだろう。そこにパトローギッシュな動機が混入していないはずはないが(なぜなら人間だから)、そうした動機がいつの間にか消えてしまっている透明な瞬間があるのかもしれない。そうした非人間的瞬間における人間の行いを、ラカンラカン派が(倫理的)「行為」と呼んでいるのは周知の通り。ただしコプチェクには、ジジェクやジュパンチッチに比べて、そうした非人間的「行為」を人間化しようとする「雑」すなわち「散文」への志向があるように以前から思っていて、そんなことを2年前に或る勉強会で話したような気もするのだけれど、あれいつ論文になるのだろうと自分に謎をかけつつ、桜の咲く頃まで続く組合の一季節を駆け抜ける。 


以下告知です。一人くらいは時間差で告知した方が少しは効果的かと思って。私も行きます。たぶん、いや必ず。シンポジウムの詳細はこちらをどうぞ。 

日本女子大学文学部学術交流研究会
シンポジウム
批評としての経験/経験としての批評
  ―レイモンド・ウィリアムズとの出会い―
                        
没後20年、ウィリアムズの批評/実践を検証する  
報告者:
 遠藤不比人(首都大学東京 准教授)
 大貫隆史(釧路公立大学 准教授) 
 河野真太郎(京都ノートルダム女子大学 専任講師)
ディスカッサント:
 鈴木英明(山脇学園短期大学 准教授) 
司会:
 川端康雄(日本女子大学 教授)
          日時:2008年3月22日(土)午後1時30分より
          会場:日本女子大学目白キャンパス 新泉山館2階会議室