「私はただ単に苦しむというだけでなく、その苦しみの独自性をあくまでも大事にしたかった。」

フェネスの新譜の4曲目の、太くてゆるやかなギターの響きと、それにまといつく繊細なノイズとを、そろそろ寿命が尽きるらしいiPodで聴きながら、電車の窓を流れてゆく多摩川べりの夜景を眺めていると、自分の目がキャメラとなってプライヴェート・フィルムを撮っているような気分になる。めずらしくもない錯覚。だがこうして私の心象は、私の外部へと折り畳まれた。そのフレームの定かでない映像は、私の知覚世界の縁を浮遊し別の数多の映像と重なりながら、時おり冬の湿り気とともに視界に降りてくる。

Black Sea

Black Sea