女と男 

少し前から、中年女性ヴォーカリストの声の魅力に囚われている。きっかけは↓ 

男と女-TWO HEARTS TWO VOICES-

男と女-TWO HEARTS TWO VOICES-

たとえば「ドラマティック・レイン」の中森明菜売春防止法施行前の玉の井の宿屋の女将の声のような荒んだ低音!)なども素晴らしいのだが、私が特にメロメロになっているのは、「サイレント・イヴ」の大貫妙子と、「秋の気配」の山本潤子(元「赤い鳥」、「ハイファイセット」)の歌声である。特に山本潤子の、大気の震えを人格化したかのような、あるいは震える息吹が大気に溶けていくかのような歌声の慎ましい美しさは、「赤い鳥」時代の張りのある艶やかな歌声とは明らかに違っていて、「艶消しの美」とでも呼びたくなるほどだ。しかし、その歌声から艶がすっかりなくなったわけではない。「秋の気配」の後半の「別れの言葉をさがしている」という一節を注意して聴いてみてほしい。淡色の声の布地の裏面に、艶めかしい肌理の声の光がきらめく瞬間がきこえるはずだ。五十路をとうに過ぎた山本潤子は、重ねられた経験から成る多層を同時に震わせ、それを一つの歌声として響かせる。〈一〉が〈多〉から生じるだけではない。逆に〈多〉は〈一〉からしか生じない。重ねられた〈多〉は、重ねるという〈一〉がなければ生成しないだろうから。そして山本潤子にとって、「重ねる」とは「歌う」ことであるにちがいない。  
にしてもなぜ中年男性(稲垣潤一)ではなく中年女性の歌声なの?って、それはたぶん、オスである私のファンタジーのせいでしょう。