彼方からの言語 

細見和之ベンヤミン「言語一般および人間の言語について」を読む』を読む。ベンヤミンのこの「難解な」論考を徹底的にパラフレーズするという地味な本だが、今後ベンヤミンを学び論じる人々にとっての必読文献となりそうだ。単なる「解説本」にとどまることなく、著者の批評観(たとえば、芸術作品の「翻訳」として批評作品を捉えているところ)が、ベンヤミンの言葉とともに浮き彫りにされているところなどさすがである。また、ベンヤミンのこの「言語論」と、約5年後の「暴力批判論」とのつながりが(ほんのちょっとだけ)示唆されている点は、私としては特に興味深いところだ。「言語と暴力」というと、ヘイト・スピーチの問題などが連想されやすいのだろうが、ベンヤミンの場合はそうした「水平的関係性」においてではなく、「垂直的な」(神学的な)次元においてこそ言葉と暴力が関係する。内在的な近代批判(暴力批判)は、どうしても「絶対的なるもの」を要請する。また、そうしたものを要請せざるを得ないような危険な場所から発せられた言葉でなければ、近代批判など勉強家の「おしゃべり」にすぎない。本書のアクチュアリティを物語る最終章の「補論」は、息詰まるほど厳密な読解が続いてきた後だけに、とりわけ印象深い。  

今夜から雪が降るときいてヴェランダにでてみると、冬の湿り気とともに数多の映像が降りてくる。雪といえば、昨年末にDVDで繰り返し見ていた『彼方からの手紙』(瀬田なつき、2008)の雪の降らせ方は素晴らしかった。いやそれだけではなく、異世界を同一のフレームに接続する巧みさ、幻想的でありリアルでもある空間把握の、複雑な時間処理の見事さ、等々を思うにつけ、この映画をスクリーンで見たいという思いが募る。悔しいけどまたDVDで見よう。この作品、とくに女の子、そして女の子のパパにオススメです。パパじゃなくてもぐしゃぐしゃになってしまいます。
DVD 東京藝術大学大学院映像研究科第二期生修了制作作品集2008 (<DVD>)

DVD 東京藝術大学大学院映像研究科第二期生修了制作作品集2008 ()

このDVD、『Passion』(濱口竜介、2008)も入っていてこの値段はお得です。『Passion』の、とりわけヒロインの女教師が教室で「暴力批判」を展開するシーンの、反転する暴力の突出ぶりは凄まじかった。