『ゴダールの社会主義』です。


『ゴダール・ソシアリスム』(J. L. ゴダール、2010)の公開初日に駆けつける。まず驚いたのは、海。ゴダール以外の映画の海と違うのはもちろん、これまでのゴダールの映画のどの海(または湖)とも違っている。まあ、これまでは主に海岸や湖岸から撮った海や湖であって、今回は客船から撮った海なのだから違うのは当然と言えば当然なのだけれど、それだけではないような気がする。ゴダールの新作を見るたびに思うのは、どうしてこの人はこうも易々と自己更新できてしまうのか、ということ。いや、この新作もどこからどう見ても「ゴダール」なのだけど、その「ゴダール」からずれる部分が与える居心地の悪さこそがゴダールなのだなぁ、と。
邦題について一言。原題は Film Socialism なのだから、『ゴダール社会主義』でいいのではないでしょうか。百歩譲っても『ゴダールソーシャリズム』。そうしないと、ゴダールの「アイロニカルな野蛮さ」が無害化されてしまう。「傾向映画」と見られてしまうことである種の客層が離れることを配給側が気にしているとしたら、その心配の底には今の日本の「空気」が流れているのだろうか。そういえば、ある翻訳書のサブタイトルが「新しい対抗政治への対話」(オリジナルでは Contemporary Dialogues on the Left)となっていたときにも同じことを感じた。ゴダール=おしゃれな(非政治的)ポストモダン、という紋切型のイメージにゴダール自身が収まったことは一度もないというのに。