屈折  


エドワード・W・サイード『故国喪失についての省察 2』を、訳者のお一人である takashimura さんよりご恵贈いただく。どうもありがとうございました。 
以下、お礼のメールに書いたことと重なるのだけれど、まずはとりあえず、第30章「抵抗すること、そして立場を取ること」を読んだ。講演記録がもとになっていることを生かした文体で訳され、サイ―ドの思考がうまい水のように体内にしみこんでくる。
特に印象深いのは、学者がアカデミックな領域の外部から受ける「屈折」について、サイ―ドが一見素朴に述べているくだりで、「たとえば、わたしの場合、研究生活に屈折を与えたのは、故国喪失とか、帝国主義とか、帝国の諸問題に端を発するような経験ですが」(237頁)というような言葉を読むと、どうしてもレイモンド・ウィリアムズ的経験のことを思ってしまい、こうした「経験」による「屈折」という受動性の刻印を受けていない言葉を垂れ流すことはできるだけ避けよう、そう自戒したのだった。いや、書かない(書けない)言い訳としてだけでなく。

故国喪失についての省察〈2〉

故国喪失についての省察〈2〉